日本人の中村瑞希さんはSNSに、「日本から皆さんへこんにちは。私が一番好きなタタールのレトロソング『Мин сине шундый сагындым(君がこんなに恋しい)』を歌いました。是非聞いてください!」というメッセージとともに、タタール語の歌を歌った動画をアップし、反響を呼んだ。
仕事で(タタール人の)知り合いにタタール語で話しかけると、まくし立てるようにロシア語で返事が返ってきた。タタール語でメールを書いてみても、返事は相変わらずロシア語。一方、(日本人である)中村さんとはスムーズにタタール語でやり取りできた。タタール語が満足に話せないタタール人がいることが恥ずかしくなった。中村さんはタタール語を独学で学び、今ではタタール語で歌も歌う。
中村さんは24歳。東京から80キロ離れた茨城県美浦村で生まれた。
中学生のころ、ロシアやそこで話されている言語に興味を持ち始めた。将来も言語に関係する仕事に携わりたいと考え、筑波大学の人文・文化学群に入学。その後、交換留学でウズベキスタンの首都タシケントに留学し、現地の大学の国際関係学部で学んだ。
タタール語への関心はまさにそこから始まった。大学で知り合ったウズベク人から、ウズベキスタンにタタール人がいることを聞き、彼らの歴史や習慣に興味を持ち始めた。論文も、ウズベキスタンに住むタタール人の言語状況について書いた。
「タタール人は誇りを失っていない」
「私は20歳まで日本人として生きてきましたが、タシケントでの一年間は私の人生を根底から変えました。ウズベキスタンの人口の20%(訳者注:記者の誤り。実際は1.5%)はタタール人です。彼らの半数はタタール語を一言も話せませんが、タタール人だという誇りは失っていません。衝撃でした。なんて強い民族なんだと思いました。その日からタタール語だけでなく、この民族に関するあらゆることに興味を持ち始めました。大学での専攻はロシア語でしたから、ロシア語の方が良くできますが、様々な言語が話せることは悪いことではありません。タシケント留学時代にウズベク語もよく勉強しました。いま私は日本語、英語、ロシア語、タタール語、ウズベク語でスムーズに会話することができます。」
中村さんによると、日本でタタール語の本はいくら探しても見つからず、辞書さえないという。ただ、タタール語を学ぶことを目標とした彼女は諦めず、ネットでタタール語を学んだ。タタール語学習サイトやロシアのSNSでのやり取りがとても楽しいという。タタール語を学ばない日・時間はない。
現在中村さんは筑波大学の大学院で学んでいる。
「中央アジアの言語問題を学んでいます。より正確に言うと、修士論文のテーマは今日のタタール人ディアスポラの言語状況です。ウズベキスタンのタタール人だけでなく、カザフスタンのタタール人にも興味を持ち始めました。筑波大学はカザン大学と協定を結んでいるので、カザンからの留学生もいます。」
中村さんは5回カザンに行ったことがある。タタールスタンに行く日を彼女は心待ちにしている。そこに住むタタール人や風土に憧れ、興味を持っている。彼女は2015年と16年に行われた国際タタール語オリンピックに参加し、15年に入賞、16年には3位に輝いた。今年もオリンピックのネット試験に参加し、98%の高得点を出した。純粋なタタール人の家庭で育ち、タタール人学校で学んだ人も、これほどのことはできないかもしれない。
残念ながら、家族でタタール語を話せるのは中村さんだけなので、タタール語での会話の機会は少ないという。まあいい、彼女のことだから両親にもタタール語を教えることだろう。ほら、パンや塩のような簡単な単語は彼らにも覚えさせただろうから。
中村さんは子供のころから歌うのが好きだ。以前は日本語で歌っていたが、今はタタール語でも歌う。歌うことは言語を習得するのにより効果的な方法だという。
将来の夢
中村さんには二つの夢があり、二つとも叶うことを願っている。一つ目は日本語でタタール語の教科書を書き、学生にタタール語を教えること。二つ目は、カザンで歌手になることだ。
中村さんとのやり取りは、私の感情だけでなく、世界をも変えたかもしれない。手に取る辞書もなく、自分でタタール語を学んだ日本人を称賛するほかない。私はあらゆる手段があっても、英語の講座に通うことに躊躇しているというのに・・・。
ついでに言うと、3年でタタール語を学んだ日本人の菱山湧人さんはタタール世界でよく知られている。国際タタール語オリンピックで優勝した後、二年間カザン大学文献学部の修士課程で学んだ。ロシア語はあまりできないが、タタール語はよくできる。最近フェイスブックに「Авылга әби-бабай янына кайттык(田舎の祖父母の家に帰省しました)」と投稿していた。日本人である彼が、タタール語の特徴だけでなくタタール人の習慣をも知るほどにタタール語を習得したことを知らない人が、「日本にタタール人の村があるのかい?」とコメントしていた。
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